EV用バッテリーの設計・制御技術

1.EV用バッテリーの歴史

EV用バッテリーは、鉛(Pb)電池に始まり、ニッカド(Ni-Cd)電池、ニッケル水素(Ni-MH)電池、リチウムイオン(Li-ion)電池と進化してきました。

重量エネルギー密度で比較すると、鉛電池が30~40Wh/kg、ニッカド電池とニッケル水素電池が60~90Wh/kg、リチウムイオン電池が90~250Wh/kgです。重量あたりで比較するとリチウムイオン電池は、鉛電池の3倍から8倍のエネルギーを持った電池となります。

なお数値に大きな開きがあるのは、電池の外装材がラミネートや缶(SUSやAl)、ハイブリッド車用途やEV用途など、形状や目的によりエネルギー密度が異なるためです。リチウムイオン電池は内部抵抗が低く、大電流の充放電を可能にするので、力強い加速、短い充電時間、さらには電池の長寿命により、高性能なEV用バッテリーとして認められています。

高性能な電池の登場に合わせて、高性能なEVも発表されてきました。代表的な車両を図1に紹介します。1991年にニッカド電池を搭載した4人乗りの2ドアクーペ「IZA」(製作:国立環境研究所、東京電力、東京R&D)が発表され、1回の充電で270km、最高速度176km/hで当時の世界記録を更新しました。

2000年にはリチウムイオン電池を搭載した2人乗りの「ハイパーミニ」が日産自動車より発売され、カーシェアリングにも利用されました。次いで2006年には、三菱自動車の「アイミーブ」、スバル「R1e」、2010年に日産自動車の「リーフ」が発売され、リチウムイオン電池と急速充電器の組み合わせ、EVに対する補助金制度も加わり、一般の方にも普及し始めました。

最高速度の記録では、慶応大学の清水教授らがリチウムイオン電池を搭載した8輪車のリムジン「KAZ」が2001年に311.6km/hを達成し、さらに8輪車のセダン「エリーカ」が2004年に370.3km/hを達成しています。

図1 高性能EVの一例
図1 高性能EVの一例

2.保護回路(Battery Management System)

リチウムイオン電池は過放電および過充電を防止するために、セル電圧を監視し、異常な電圧を防止する保護回路が必要になります。図2にセル電圧監視の一例を示します。

Mn系や三元(NCM)系のリチウムイオン電池の使用電圧範囲は、3.0Vから4.2Vとされており、4.2V以上では、過充電状態に近づき、5V付近では電解液の分解→ガス化→内圧の上昇→膨張・温度上昇となり、最悪は発火・破裂します。

図2 セル電圧と過充電・過放電領域
図2 セル電圧と過充電・過放電領域

そこで、上限電圧を4.25Vと設定し、異常な電圧に達しないような保護回路が必要となります。また、3.0V以下の電圧では、過放電状態に近づき、電圧が2V以下では電解液の分解→ガス化が起こり、発火には至りませんが電池機能が失われます。

このため、2.4V付近を下限電圧とする保護回路が設けられています。これらの電圧の閾値は、正極・負極に使用される活物質により左右され、電池メーカーの推奨する閾値に従って決定する必要があります。

一方、EVでは高効率の交流モーターを使用するため、インバータ(モーターコントローラー)を介して電池からの直流を交流に変換する必要があります。変換効率を高くするため、直流電圧も高い方が望ましいです。

EVでは、3.7Vのリチウムイオン電池を96個直列に接続して、355Vの直流電圧で供給しています。電池の保護回路(BMS)は、この96個の全ての電圧を計測し、車両側のコンピューター(VCUやPCUなど)とCAN通信を行い、各セル電圧、温度、電流値、SOC(電池残量)などのデータ送信、DCリレーの開閉などが求められています。

3.EV用バッテリーの設計ポイント

バッテリーの歴史上、リチウムイオン電池は高性能ですが、実際にEV用に設計を進めていくと、①重量が重い、②価格が高い、③使用温度範囲が狭い(守らないと寿命が短くなる)などの問題があるため、さらなる高性能な電池開発も進められています。そこで、EV用バッテリーの設計ポイントについて記述します。

①電池技術者とEV設計者のコミュニケーションが重要

EV設計者は、低コストで最大の性能が引き出せるようにリチウムイオン電池の特性を求めますが、従来の内燃機関以上の性能を求めるあまり、電池にとって過酷な使用条件を要求する場合があります。電池技術者(又は電池を販売する人)は、正確なデータを示し、長所・短所を含めて意見交換することが重要です。

②リチウムイオン電池で何を解決したいのか?

電池重量の軽量化、大電流負荷への対応、長い電池寿命、等の要望を全て満足させることが出来れば理想的ですが、電池の性能やコストを考慮すると優先順位を決めて設計する必要があります。

③最適な電池容量

1充電の走行距離は長い方が安心しますが、利用目的にあった電池容量で設計するのがポイントです。こまめに充電出来れば、電池容量は少なくて、軽量・低コストとなります。

④最大電流の確認

設計中のEVは、車両重量が不明で加速時の最大電流やブレーキ時の回生電流が不明な場合があります。短時間の大きな放電電流は可能ですが、回生電流は短時間であっても注意する必要があります。

受け入れ可能に見えても電池は化学反応であり、電極内部での不均一な反応が危険な事態を招く場合があります。そこで、早い時期に走行試験を行い、最大電流や回生電流を計測し、電池技術者と協議する必要があります。

⑤寿命の推定

EV用バッテリーの寿命は8年以上、小型EVであれば5年以上で設計する必要があります。用途によっては10年以上が求められることもあります。環境温度、電圧範囲、レート特性などを考慮したサイクル劣化と保存劣化を求め、寿命の推定も重要です。

⑥安全な運用と信頼性向上のための実証実験

試作車両による1年間程度の実証実験を行い、最大電流(放電・回生)や電池の温度変化、容量劣化、内部抵抗の上昇などのデータを取得すると、電池の劣化予測が明らかになります。この結果、改良箇所が明確になり、次の試作&フィールドテストが可能になります。

4.MVL社の保護回路(BMS)

図3に弊社で開発した保護回路(BMS)の一例を示します。各セルの電圧は左側のBMS-MON基板で計測します。この基板にセル電圧を計測するICが搭載され、平準化のための抵抗が用意されています。サーミスタによる温度計測も可能です。

図3 保護回路(BMS)基板
図3 保護回路(BMS)基板

これらのデータは右側のBMS-CPU基板へ伝えられます。CPU基板には電流値や絶縁劣化センサ、DCコンタクタの制御が可能で、CAN通信で上位の車両コンピューターに伝えられます。車両コンピューターは電池の状態を把握し、異常があれば電流値の制限やドライバーへの警告、充電の停止などを指示します。

図4にBMSのハードウエア構成ブロック図を示します。また、このBMSは研究開発中のEVや蓄電システムへの利用を目的としているため、新しく開発される活物質にも対応できるよう上限電圧や下限電圧などの閾値を容易に設定できるようにしています。この指令は図5に示す液晶モニタを介して入力することが出来ます。

図4 BMSのハードウエア構成ブロック図
図4 BMSのハードウエア構成ブロック図
図5 液晶画面の様子
図5 液晶画面の様子

5.EVによる最高速チャレンジ

(株)モビテック社のテクニカルセンター(愛知県刈谷市)よりEVバイクで最高速を目指す相談を受け、弊社が電池を担当することになりました。米国ユタ州ソルトレイクで夏に開催されるボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ(BMST)に参加して300km/h以上を目指すというプロジェクトです。

2015年に製作した1号機(EV-01)では、高出力型のリチウムイオン電池(NCM系、15Ah、ラミネート型)を使用し84直列-3並列(310V-45Ah、14kWh)で 出力200kWを目指しました。

シャシダイナモ評価で300km/hを確認し、この時の電流値には余裕がありましたので良かったですが、実際に車両を走行させるとコントロールが難しく、2017年にアスファルトの上で303.2km/hを記録するものの固まった塩の上を走るBMSTでは250km/hとなり、最初から設計を見直すこととなりました。電池には、軽量化とコンパクト化が求められました。

図6 EVバイク1号機(EV-01)
図6 EVバイク1号機(EV-01)

そこで、リチウムイオン電池の限界値を明確にする目的で、単セルでの放電試験、小型モジュールでの放電試験を行い、大電流における温度上昇と冷却の様子を確認しました。この結果、2018年に製作した2号機(EV-02)では96直列-2並列(355V-30Ah、11kWh)のモジュールを製作して搭載しました。

2018年のBMSTで300km/hに到達するも超高速時に発生した横揺れにより転倒のアクシデントが発生、ライダーの怪我と車両の故障により終了しました。幸いライダーの怪我も車両のダメージも重症ではありませんでした。

超高速域で発生する横揺れ対策を行い、2019年のBMSTに出場。レース初日から3日目は、いくつかのトラブルに見舞われながらも、徐々に速度記録を更新。4日目には制限範囲を限界まで引き上げて、1本目(往路)の記録は324.475km/h(201.620mph)、2本目(復路)の記録は333.825km/h(207.430mph)、往復平均で329.3km/hとなり、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)およびAMA(全米モーターサイクル協会)が認定するワールドレコードとなりました。

図7 最高速達成の様子(EV-02A)
図7 最高速達成の様子(EV-02A)

【参考文献】

  1. 1)電気自動車の最新制御技術 NTS出版 2011年6月
  2. 2)松尾 博 最新リチウムイオン二次電池 情報機構 p289-312 (2008)
  3. 3)松尾 博 科学・技術研究 Vol.3,No.1(2014)
  4. 4)松尾 博 リチウム二次電池の車載技術、技術情報協会、p628-633 (2011)
  5. 5)モビテックEVバイクプロジェクト「世界最速へ続く軌跡」2019年12月
(著)マイクロ・ビークル・ラボ株式会社

6.参考カタログ