キャパシタとは

1.キャパシタの概要

キャパシタとは、二次電池と同じ繰り返し充放電可能な蓄電デバイスの一種です。

二次電池は化学的に電気を蓄えているのに対し、キャパシタは電荷を電極表面に直接蓄えていることから、充放電時は電極表面の電荷が移動(物理反応)するため、充放電スピードが速く、大きな電流を流すことが得意な一方、蓄えられる電気量は少ないという特徴があります。またキャパシタは、電圧を測定することで蓄電残量を把握することが可能です。キャパシタは物理反応を用いて充放電を行うことで、電極の劣化を抑えることができることから、化学反応を用いて充放電を繰り返す二次電池と比較して、サイクル寿命が長い特長もあります。また化学反応は外部の環境温度の影響を受けやすく、低温環境下では化学反応が起きにくく、充放電がしにくくなることから二次電池の使用温度範囲は狭くなる傾向があります。一方でキャパシタは物理反応を用いることから、化学反応に比べて環境温度の影響を受けにくく、二次電池よりも使用温度範囲(特に低温側)が広くなる傾向があります。

2.キャパシタの種類

キャパシタの容量にはF(ファラッド)が用いられ、μF(マイクロファラッド)やpF(ピコファラッド)などの1F未満を「コンデンサ」、1F以上を「キャパシタ」と呼んで区別するケースが多い様です。

現在市販されている容量が大きいキャパシタは、一般的に「電気二重層キャパシタ(EDLC)」・「リチウムイオンキャパシタ」の2種類があります。

電気二重層キャパシタは、英語でElectric Double Layer Capacitorと表記され、その略称で「EDLC」と呼ばれます(以降、EDLCと記載)。EDLCは正極・負極に活性炭を用い、電解質イオンを吸着・脱着します。活性炭は比表面積が大きいため、電極に用いることで多くの電気を蓄えることができます。EDLCは充放電スピードが早く、劣化しにくい点に加え、従来のコンデンサよりも大容量を実現することで、出力アシスト、バックアップ電源、エネルギー回生の用途を中心に活用が広まりました。その他の特徴としては、下限の電圧制限が不要(0Vまで完全放電可能)というメリットがある一方で、自己放電が進みやすいというデメリットがあります。

リチウムイオンキャパシタは、EDLCの正極(活性炭)とリチウムイオン電池の負極(黒鉛)を組み合わせた構造によって、キャパシタの特長である充放電スピードの速さや劣化しにくいといった長所に加え、動作電圧を上げたことでエネルギー密度の向上を実現したキャパシタです。また、リチウムイオン電池と比較して発火事故が起きにくく、安全性の高い蓄電デバイスです。それゆえリチウムイオンキャパシタは、国連(UN)が定める「危険物輸送に関する勧告」の中で「UN3508: Capacitor Asymmetric(非対称キャパシタ)」に該当し、減圧試験と1.2m落下試験をクリアすることで、一般貨物として国際輸送が可能となります。デメリットは、リチウムイオン電池と同様、電圧制限が必要なため電圧を監視する回路が必要な点や、同体積で比較した場合にリチウムイオン電池の約1/10しか容量が蓄えられない点があげられます。

EDLC、リチウムイオンキャパシタは環境負荷の高い化学物質(鉛等)を含んでいないことから、環境規制が今後強化された場合も問題なく使用いただけます。

3.EVへのキャパシタ利用

EVにおける課題とキャパシタを利用するメリットをご紹介します。

〇駆動用電池の寿命向上

電池と比較して内部抵抗の低いキャパシタを補機電源に採用することで、システム起動時の突入電力や回生電力を優先的に吸収することが可能です。その結果、駆動用電池側の負荷が軽減され、電池の寿命向上に貢献します。

〇車両重量増加対応

EV車両は大量の電池を搭載する必要があるため、内燃機関車両と比較して、車両重量が増加する傾向があります。車両重量の増加につれ、電動パワーステアリングの大型化・高出力対応などが必要になり、電動パワーステアリングのピーク負荷時の電流量が増加して補器用電源への負荷が増大します。その結果、ピーク電流に対応するために大型の補器用電池が必要となり、車両が更に重くなってしまうという悪循環が生まれる可能性があります。そこで、電池と比較して出力密度が高いキャパシタを補助電源として採用することで、ステアリングのピーク電流の出力アシストが可能となります。

〇油圧部品の電動化対応

電動化に伴い内燃機関がなくなることで、これまで内燃機関(軸出力)を活用していた油圧部品の電動化が進みます。従来油圧を利用していたデバイスは、高出力(制動力、駆動力)が求められていました。そのため油圧部品を電動化する際、補器電源への負荷が増えます。特にブレーキの電動化は内燃機関車両と比較して車重が増えるEV車両では、更に負荷が増えることが予想されます。そこで、電池と比較して出力密度が高いキャパシタを補助電源として採用することで、高出力時の電池の負荷を下げることができます。

〇低温出力対応

化学反応を用いて充放電を行う二次電池は、低温環境で正極・負極の化学反応が遅くなり、また電解液が凍結することで、性能が低下します。(空調や配置場所で工夫する必要有)
一方、物理反応が主体的なキャパシタは低温環境の影響を受けにくいことから、空調フリーで低温時の出力アシストやシステムの起動用の電源として使用することが可能です。

〇電源失陥時の対応

EV車両の設計にあたり、商品の付加価値向上のため、電動化だけでなく自動運転に対応する必要があります。自動運転中の安全性を確保するため、電源失陥時に備えた冗長(バックアップ)を考慮する必要があります。バックアップ電源は常時使用するわけでなく、異常時に確実な作動(寿命)が要求され、バックアップ対象システム(操舵系、ブレーキ系)によっては容量よりも瞬間的な出力が必要となり、EDLCやリチウムイオンキャパシタのような出力密度が高く、長寿命な蓄電デバイスを用いることで、最適な電源システムを構築することができます。

また、各種部品にバックアップ電源を配置するのでなく、容量の大きいリチウムイオンキャパシタを利用した統合バックアップ電源にすることで効率的なバックアップ電源システムを構成することも可能です。

〇設計制約対応

リチウムイオン電池は使用環境温度の影響を受けやすく、決められた温度範囲内で使用しないと性能劣化が生じることから、リチウムイオン電池を保護する冷却システムの構築や温度影響を受けにくい場所に配置するなど、レイアウト設計上の制約が生じます。補機電源、ピークアシストやバックアップ用途の補助電源を選定する際に、動作温度範囲の広いEDLCやリチウムイオンキャパシタを採用することで、搭載自由度の向上やケーブル・ハーネス類の短縮も可能となります。

4.ジェイテクトの高耐熱リチウムイオンキャパシタ

世界初となる-40~85℃の動作温度範囲を実現しました。自動車の室内内搭載部品の温度要求を満たしているため、冷却・加温装置不要で搭載が可能になりました。

高耐熱化により大電流充放電時の自己発熱(ジュール発熱)でも劣化しにくいことから、従来のキャパシタよりも高い出力密度を維持しつつ、サイクル寿命が大幅に向上しました。

(著)株式会社ジェイテクト