EVにおけるシミュレーション(CAE)とは

1.EVにおけるシミュレーションとは

ここでの「シミュレーション」は、試作実験や現象の可視化・数値化が困難な現象をコンピュータ上に構築したモデルで再現し分析することを意味します。「CAE(Computer AidedEngineering)」「数値解析」「数値シミュレーション」「解析」などとも呼ばれています。

自動車業界で利用されている主なシミュレーション(CAE)には、「熱流体解析」「構造解析(強度・振動・衝突)」「機構解析」「電磁場解析」「音響解析」などが挙げられ、研究開発、設計段階から生産段階、マーケティングまで幅広い段階で活用されています。

2.シミュレーションの意義

シミュレーションを製品の設計、製造や製造工程の検証などに利用することで、以下の効果を狙えます。

品質・安全性の向上

設計検討時や品質問題が発生した際など、コンピューター上でシミュレーションを行い様々な条件における挙動を評価することで、設計や生産工程の検証や妥当性を確認し、現象の発生要因を探ることで、品質や安全性を高めることができます。

コストの削減/開発期間の短縮

シミュレーションで複数の設計検討を行い形状を最適化したり、実験の一部をシミュレーションで置き換えたりすることで、コストの削減や開発期間の短縮が実現できます。

共通認識の形成

シミュレーションの結果を数値化し、画像や動画など可視化情報をもとに社内関係者や顧客に訴求することで、製品の特徴や性能をより効果的に表現することができ、共通認識の形成や製品のアピールにつながります。

3.粒子法による流体解析

前述したシミュレーションという分野から、本ページでは、「粒子法による流体解析」に注目してご紹介します。

CAEで従来から一般的に使われてきた格子法(圧力や流速などの物理量を計算するために、メッシュと呼ばれる計算格子を用いる手法)に比べ、「粒子法」では空間を表す格子を用いることなく、計算結果をもとに速度や圧力といった変数を保持しながら移動できる粒子を計算点として利用します。粒子法では、流体の流れを粒子自体が表すため、解析領域を事前に設定する必要がなく、流体の飛沫が広く飛散するような状態を追跡する場合に非常に有効です。メッシュ生成というプロセスがないため、解析計算のプリ処理が大幅に削減されるうえ、メッシュ形状に影響される計算の発散や異常終了は起こりません。

この粒子法を採用したメッシュフリー流体解析ソフトウェアParticleworksは、水や油などの液体を対象に、その攪拌や飛沫など、大規模変形を伴う自由表面流れの解析に威力を発揮します。その利用は多岐に亘っていますが、特に自動車・輸送機械の分野では、冠水路走行、水/泥はね、オイル攪拌/潤滑/冷却、スロッシング、オイル中の気泡解析など様々な用途で実用化されています。

4.自動車業界におけるシミュレーションの適用

A)燃料スロッシング

車両走行を想定した外力加速度を与え、燃料タンク内の液体の挙動をシミュレーションします。バッフル板の有無による燃料挙動を比較することで、その効果を評価することができます。

B)ギアオイル攪拌

大きさや回転数の異なるギアの挙動によりエンジンオイルがどのように振舞うかをシミュレーションします。ギアによって掻き上げられたオイルが機構上部から流れ込む様子や、オイル量や流路を妨げる部材の取り付け位置によって、オイルが流れ込みにくい現象があるかどうかが確認できます。また、気泡がどのように振舞うかをシミュレーションし、潤滑不良や冷却不良などが生じないかの事前予測に活用することが可能です。

C)モータ冷却

オイルの噴射条件を変更し、コイルエンドへの衝突後のオイル挙動を比較することができます。シミュレーションにより、オイルがコイルの狭小なクリアランスを通過し、コイル内周側へ伝うことが確認できます。また、コイルエンド表面を流れるオイルの熱伝達係数を出力することで、モータの冷却性能を評価することができます。

D)ピストンオイル冷却

エンジン内部で超高速で上下運動を繰り返し、高温の燃焼室と接触するピストンは、温度が上昇しやすく、エンジンの中でも冷却性や潤滑性が最も厳しい部品です。このようなピストンには、ピストン裏面に冷却用のオイルを噴射するオイルジェットが採用されています。このオイルジェットの噴射をシミュレーションで再現することで、通常では見えない部分の現象を可視化し、より深い理解や考察を可能にします。

E)高圧洗浄機

床タイルに付着した泥汚れの洗浄シミュレーションです。噴射条件等を検討しながら、水を高圧に噴射して、汚れを周囲に高速に飛散させる挙動を評価できます。

F)シール材のノズル塗布

塗料がノズルから噴射され、壁面に塗布される様子をシミュレーションします。ノズルの形状により、塗布された塗料の厚さ、幅などを検討することができます。

G)サイドミラー周りの水流

走行中の車両のサイドミラーに水滴が衝突した際の挙動を解析し、現象の理解や形状の最適化を実現することができます。

H)冠水路

冠水路を車両が走行する際、どのように水が車両内部に侵入するかを評価します。実験前にこのようなシミュレーションによる評価を行うことで、車両内部への水の侵入量や経路などを事前に把握し、実験で詳細なデータを取得するための計測装置の設置位置などの検討に利用することも効果的です。

I)成形容器の型への粉体充填解析

Particleworksと同じく、プロメテック・ソフトウェアが開発・販売しているDEM粉体解析ソフトウェアGranuleworksは、粉体の混合、搬送、充填など、粉体を使った様々な製造プロセスや粉体加工、粉体装置の設計・改良に活用することができます。この事例では、粉体に高い応力を印加して成形する工程をシミュレーションします。自動車用の粉末冶金製品やリチウムイオン電池製造における粉体技術への適用などが期待されます。

J)ショットピーニング解析

機械工作における噴射加工の一種、ショットピーニングにおけるショット(無数の粒子)をモデル化し、被加工物に接触した際の到達範囲、ミーゼス応力を予測する事が可能となります。対象物を加工する前に、ショット材の直径、ショットのスピードを自由に変更する事により、物理量の変化や状態を予測することが可能です。

5.おわりに

このように、自動車業界では様々な場面でシミュレーションが利用され、現象の理解や性能の向上、品質問題の原因解明などに役立てられています。シミュレーションの結果は担当部署のみならず、他部署や組織(設計や実験部門あるいは取引先企業)間で共有することが可能です。これにより、解析実務者や設計者、実験担当者、そして取引先企業にいたるまで、現象のより深い考察や、多角的な評価を行うことが可能となります。

また、近年、GPU(Graphics Processing Unit)をはじめとするハードウェアの飛躍的な向上やクラウド化に伴い、シミュレーションの利便性はますます高くなっています。自動車業界における高付加価値なものづくりを実現するために、今後シミュレーションの活用はますます進むと考えられます。

参考文献

  • 粒子法・MPS法 (プロメテック・ソフトウェア株式会社)
  • 技術コラム(プロメテック・ソフトウェア株式会社)
(著)プロメテック・ソフトウェア株式会社

6.参考カタログ