自動車の音振動とは

1. 自動車の音振動(クルマのNVH性能最適化について)概要

1-1.自動車のNVH性能

最適なNVH性能(※NVH :Noise = 騒音、Vibration = 振動、Harshness = 不快感)の追求は、今日の自動車の設計における重要な側面です。最近のクルマは静粛性が増してきています。しかしクルマが洗練されていくにつれて、お客様は単に騒音レベルの低減だけではなく、快適なドライブを楽しめる調和のとれたサウンド体験への期待が高まってきます。こうした期待に応えるために、製造メーカーは最新のNVH最適化技術に常に注目しています。

最適なNVH性能を実現するために、車両開発プロセスにおいて重要な役割を果たす手法について、ヘッドアコースティクスの革新的なソリューションとツールを交えながら以下に紹介します。

2. 自動車の音振動 最適化

2-1. バイノーラルダミーヘッドによる測定

NVHの最適化における重要な課題のひとつは、車両が生成する複雑なサウンドパターンを正確に捉えて分析することです。この課題に対処するため、ヘッドアコースティクス はバイノーラルダミーヘッド技術を開発し、人間の聴覚を正確に再現することを可能にしました。バイノーラル録音に採用されている最先端のダミーヘッドであるHMS Vは、音響環境を正確に捉えることができるため、NVHエンジニアは車両のNVH性能をリアルな方法で評価することが可能です。この革新的なアプローチにより、NVHエンジニアは個々のノイズ源を特定して最適化し、全体の調和のとれたサウンド体験を実現することができます。

2-2. バイノーラルダミーヘッドの必要性

ところで、何故、音データの収録にバイノーラルダミーヘッドが必要なのでしょうか。バイノーラルダミーヘッドは、人間の鼓膜に到達する音を忠実に再現するように設計されています。リスナーがあたかもオリジナルの音場にいるかのように音を収録します。音は人の鼓膜に到達するときには既にレベルとスペクトルが変化しています。この効果が、バイノーラルダミーヘッドの人体解剖学的構造と頭部伝達関数(HRTF)に落とし込まれています。リスナーがその音場に居ること自体により惹き起こされる肩、頭、耳介での反射と回折が再現されていますし、ダミーヘッドに外耳道(耳の入り口から鼓膜までの管)と耳甲介腔(外耳道開口部のくぼみ)の共鳴の効果が反映されていて、人の聴感と同様に3kHz以上の周波数帯での音の印象が増幅されます。

バイノーラルダミーヘッドは音の到来方向も認識することができます。左右の耳の到達時間差によってのみでなく、上下、前後方向についても、人の脳と同様、特定のスペクトルの歪みと特定の到来方向とを紐づけることでHRTFに落とし込んでいます。

バイノーラルダミーヘッドで録音したデータには、人間の脳と同じように音源を聴いて切り分けられる為の必要な情報が含まれます。

2-3. 単一測定

一方、単一測定マイクで録音した音データには、音の到来方向や距離を特定するのに必要な情報が含まれない為、聴感に基づいた評価ができません。録音データを聞いても、多方向から集まる複数の音源が一緒くたになっていて分離できません。また、測定マイクによる録音データでは、静かな音が大きな音によってマスキングされ、オリジナルの音場では不快と認識されたノイズが、録音データでは捉えられないということも起こり得ます。

3. 自動車の音振動 測定・解析システム

3-1. シミュレーション手法と伝達経路解析

実際に試作車を仕立てるのにかかる時間とコストを最小限に抑えるために、自動車の開発プロセスにおいてシミュレーション技術と伝達経路解析技術がますます活用されるようになってきています。

3-2.TPA

ヘッドアコースティクスのソフトウェアソリューションであるArtemiS 伝達経路解析(TPA)プロジェクトを用いると、伝達経路モデルの構築、音振動の伝達を解析するためのソース音源の特性と伝達経路ごとのノイズ寄与の計算を容易に行うことができます。例えば、パワートレインのTPAでは、エンジンとトランスミッションがソース音源です。パワートレインマウントと車体が受動側の構造を形成し、レシーバーはドライバーの耳です。正確な聴覚印象を確保するために、バイノーラルダミーヘッドを使用してレシーバー位置で測定を行い、ソース音源から左耳と右耳への伝送経路をモデル化します。このタスクをバイノーラルTPA(BTPA)と言います。

こうして、NVHエンジニアが車両の挙動を予測し、潜在的なノイズ源を特定し、音の伝達経路を最適化する為の支援が可能となり、メーカーは実車によるテストの必要性を最小限に抑えながら、お客様の期待に応えるターゲットサウンド開発に取り組むことができます。

3-3.振動音響モデルの生成

さらに、音源の特性と伝達経路ごとのノイズ寄与の計算結果から、騒音/振動の伝達を再現する為の振動音響モデルを生成し、これをNVH シミュレーター用の入力データとしても利用することができます。これは次項にて説明します。

4.車両の音質評価

4-1. NVHドライビングシミュレーターとリアルな車両シナリオ

NVHドライビングシミュレータは今日の自動車開発に欠かせないツールとなりました。NVHエンジニアがさまざまな運転条件下で車両の音質を評価できる没入型体験ツールです。NVHドライビングシミュレータの設計と統合におけるヘッドアコースティクスの専門的知見により、メーカーは実際のドライビング環境をシミュレートするリアルなシナリオづくりができます。ヘッドアコースティクスのインタラクティブなNVHシミュレータであるPreSenseによるバーチャルテストドライブは、エンジニアが、実際にプロトタイプが製作されるよりも前の段階でNVH最適化について十分な情報に基づいた決定を下すのに役立ちます。

NVHシミュレーターPreSenseを用いて運転操作に連動した車室内の音のフィードバックをバーチャルにインタラクティブに評価することができます。前項で述べた実車測定データやCAEシミュレーションデータからつくり込んだデータセットと振動音響モデルが搭載され、パワートレインやコンポーネンツの音源の複数の選択肢をバーチャルに切り替えながら試聴したり、個々の伝達経路毎に聴いたりすることも可能です。PreSenseは高音質が特徴で、アクセルを踏み込んでRPMやエンジン負荷を急激に変化させても切り替えノイズがしないシームレスな音の遷移を実現し、さらに、エンジンの合成音などクルマにキャラクターを与えるアクティブサウンドデザインを実際の走行音と連動させながら行うこともできます。サウンドデザインの為に、BlackBerry® QNX®などサードパーティーの音響デザインツールとのインターフェイスも確保されています。アクティブサウンドデザインを机上でバーチャルに行える為、実走評価に時間と労力をかけずに済みます。

5. ターゲットサウンドデザイン

今日のNVH最適化においては、単にノイズレベルを低減するだけでなく、全体的なドライビング体験の快適化を意図したターゲットサウンドづくりが重要です。

5-1. 心理音響解析メソッド

ヘッドアコースティクスの解析ツールは聴感印象を忠実に可視化するのが特徴です。人の聴覚特性を解明して開発したヒアリングモデルという独自の心理音響解析メソッドを採用しています。ひとことで言うと、人の耳は定常的に鳴る音は不快に感じず、非定常的に鳴る音を不快と感じるといった聴覚特性です。ヒアリングモデルを用いた弊社の解析メソッドは国際標準規格ECMA 418-2 として規格化されています。ヘッドアコースティクスはサウンドデザインに特化したソフトウェアソリューションを提供しており、NVHエンジニアは不快なノイズ要素を最小限に抑えながら、お客様の期待に応えるターゲットサウンドづくりに取り組むことができます。

6. 結び:開発初期段階へのフロントローディング

競争力を維持し、厳しい開発サイクルに対応するために、メーカーのNVHエンジニアは自動車開発の初期段階から音質の最適化に関与していく必要があります。ヘッドアコースティクスはこうしたニーズに応えるべく、シミュレーション、伝達経路解析、ドライビングシミュレーションのソリューションと専門的な知見によりサポート致します。

ヘッドアコースティクス: 優れたNVH 実現のためのパートナー

NVH最適化は、先端素材、革新的な設計技術、高度なシミュレーションツールの組み合わせを必要とする多面的な課題です。音振動の測定・解析システムのリーディングプロバイダーであるヘッドアコースティクスは、この取り組みにおける専門的なソリューションとサポートを提供し、快適かつ洗練されたドライビング体験の実現の為のお役立ちを致します。弊社の豊富なツール及びサービスをご提案し、メーカーのNVH性能改善と顧客満足度の向上、市場競争優位性の確保に貢献して参ります。

(著) ヘッドアコースティクスジャパン株式会社