自動車の3次元計測の概要

1. 3 次元計測技術

今日の自動車は、非常に複雑な構造設計がされており、各部品のミスマッチや形状誤差が 走行安全性や耐久性に大きく影響を与えているため、微細な誤差の把握と制御が不可欠です。
従来の測定器は 2D レーザスキャナやフラットベッドスキャナといった 2 次元計測が多く、複雑な 3 次元形状や自由局面を持つ部品の測定には対応が難しいものでした。また、手動操作が多く、操作者の熟練度や計測環境の影響を受けやすいため、測定精度にばらつきが生じることもありました。さらに近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)は自動車業界に大きな変革をもたらしています。DX は、デジタル技術を活用してビジネスモデルやプロセスを根本から見直し、企業の競争力を高めることを目的としています。
この流れの中で、 3 次元計測技術の活用が自動車製造工程において注目されています。

2. 3 次元計測機器の活用

3 次元計測機器の 1 つにモーションキャプチャシステムがあります。モーションキャプチャシステムは、被写体の動きを 3 次元空間で精密に記録する技術であり、計測機器を通じて得られたデータが様々な分野で活用されています。

2-1. 計測方法

計測方法は、光学式を用いており複数のカメラを使って対象物に取り付けたマーカーの位置を三角測量の原理で計測しています。この計測技術により、動作解析や姿勢推定などが可能となり、エンターテインメントやスポーツ、産業分野などで応用範囲が拡大しています。
さらに最新のモーションキャプチャカメラは、1000Hz 以上でのサンプリングレートで計測が可能です。そのため、衝突実験や振動試験、耐久試験といった高速現象下の計測も要望が増加しています。
しかし、モーションキャプチャシステムはマーカー位置の 3 次元座標を算出するシステムであるため、私たちは物理量解析ができるフトウェア VENUS3D R を開発することで計測したマーカー位置から自由度の高い物理量解析を実現しました。そのため、モーションキャプチャカメラと解析用ソフトウェアである VENUS3D R を組み合わせることで高精度な実験・検査を実現し、自動車産業分野における品質保証を向上させることができます。さらに、リアルタイム機能で実験効率を高めることや、異常検知のように効率的な生産ラインの実現につなげることができます。

2-2. 解析用ソフトウェア VENUS3D R とは

私たちの提供している VENUS3D R とは、光学式モーションキャプチャシステムで計測したデータを変位や速度などのさまざまな物理量を解析することができるソフトウェアです。前提知識として光学式モーションキャプチャシステムとは、複数台のカメラと赤外線反射マーカーを組み合わせることで、3 次元空間上における反射マーカーの位置を±0.1 ㎜単位で解析ができる技術です。図 1 で示すように計測対象にマーカーを貼り、モーションキャプチャカメラを設置することで高精度かつ細かい動きや速い動作の計測することができます。しかし、モーションキャプチャは高精度な計測は可能であるが、計測データを利用するには不向きでした。そこで、VENUS3D R はモーションキャプチャシステムで計測したデータを解析することに特化したソフトウェアとして開発しました。

図 1 モーションキャプチャの設置の様子
図 1 モーションキャプチャの設置の様子

VENUS3D R はリアルタイムにモーションキャプチャシステムからの 3 次元座標データを受信し、表示や解析、保存することができます。そのため、VENUS3D R は事後解析の機能だけでなく、実験中にリアルタイムで物理量を表示・解析することが可能です。

また VENUS3D R には約 40 個以上の解析項目が備わっています。例えば、座標や変位、速度、加速度といったマーカー単体で解析できるものから、ヨー・ピッチ・ロール角やオイラー角といったマーカー複数点を要する解析にも対応しています。そのため、VENUS3D R は自動車産業における性能試験や耐久試験、製造ロボットの品質評価といったさまざまなニーズを満たしています。

3. 活用事例

今回は、自動車産業における事例を 2 つ用いて VENUS3D R の活用方法について紹介します。

3-1. サスペンションの実走評価計測

まず、1 つ目の事例はサスペンションの実走評価計測です。図 2 で示すようにモーションキャプチャカメラを車体のボディに 3 台取り付けて計測をします。反射マーカーはフェンダーに 3 点、ホイール中心部に 1 点貼り付けています。この状態で凹凸のある道路を走行させることで、ホイール側の反射マーカーがフェンダーにどれだけ近づいたのかを計測します。これにより、サスペンションがどの程度振動を吸収できるかを数値化することができます。

図 2 では、段差を通過する際に、ホイールがフェンダーに約 300mm 近づいたことが分かります。このように、VENUS3D R では車体部品の性能評価を実現しています。

図 2	サスペンションの実走評価計測
図 2 サスペンションの実走評価計測

3-2. ロボット動作の位置計測

次に 2 つ目の事例は、製造ラインで使用するロボット動作の位置計測です。
図 3 では、ティーチングを終えたロボットの動作を計測し、設定を行った位置に正しく移動しているのか、ロボットの回転角度に問題がないかなどを測定することで、製造ラインの不具合検知などに使用されています。
また VENUS3D R には、図 3 の左上に示すスティックピクチャ機能が搭載されているため、ユーザーは視覚的に情報を理解しやすくなります。他にも、マーカーの加速度からロボットの移動方向を推定できるため、動的な動作分析や状況の把握に役立つことから、データの解釈にかかる時間を短縮させます。
以上、2 つの事例以外でも VENUS3D R は自動車産業分野において大きく貢献しており、高い利便性を発揮しています。

図 3	ロボット動作の位置計測
図 3 ロボット動作の位置計測

3-3. リアルタイム解析機能

VENUS3D R に搭載されているリアルタイム解析機能は、他に例の少ない機能となっています。そこで VENUS3D R はそのリアルタイム解析機能を生かし、リアルタイムに物理量表示を行うことや、他の計測機器との同期、信号の出力といった機能が備わっています。そこで、各機能詳細について説明します。

まず他の計測機器との同期についてですが、例えば、自動車の耐久試験において加振器や加速度センサなど様々な計測用のセンサを使用することがありますが、モーションキャプチャシステムだけでは、それらと同期を取ることはできません。しかし、VENUS3DR では AD コンバータと連携することで、信号の入出力が実施できるため、加振器や加速度センサとのトリガを合わせることが可能です。また、信号を出力することで、異常検知を行うこともできます。再度、耐久試験を例にすると、測定対象の変位や加速度をリアルタイムで解析するとします。試験実施中に、想定されている挙動や変形が発生した際に VENUS3D R から信号を出力することで、試験装置の制御を行うといったことが可能です。これらの機能は、顧客の現場環境やニーズによって柔軟に対応することができます。

4. まとめと今後について

モーションキャプチャシステムは自動車産業における生産ラインや性能・耐久試験などにおいて必要なものになっています。そこに解析用ソフトウェアである VENUS3D R を組み合わせることで、モーションキャプチャシステムによって得られたデータを解析し、多方面にアプローチすることができます。本記事では、自動車産業分野の事例として、サスペンションの実走評価計測やロボットの位置計測を紹介しました。また VENUS3D R にあるリアルタイム解析機能の応用方法について述べ、VENUS3D R が自動車産業分野において優位性があることを示しました。今後、VENSU3D R はさらなる柔軟性、応用性を高めるため、リアルタイム簡易寸法計測機能や、マーカレスモーションキャプチャなどの応用に取り組んでいく予定です。

(著)株式会社ノビテック