光計測技術とは

1. 光計測についての概要

明るさや色の感じ方は人によって異なり、体調などの影響も受けて安定しません。[光計測]は人の目が感じることができる明るさや色を定められた基準を元に定量的に数値化して計測することを意味します。
光計測には光の単位に応じて多様な計測機器が存在していますが、本項では自動車のカーナビゲーションディスプレイやメーターパネル、ヘッドランプなどの数多くの部品評価に採用されている輝度(カンデラパー平方メートル)という単位を中心に、光計測に関してご説明致します。

自動車部品の光計測を取り巻く環境の変化として、バルブ光源やHIDからLEDや有機ELなど光源の多様化が進み、明るさや色味の管理の重要性が向上しています。
近年の、電気自動車や自動運転機能搭載車の市場規模拡大に伴い、運転席から助手席までをカバーする大型ディスプレイや、内装装飾・照明の表現などに多様なディスプレイが採用されています。

図1:自動車の光計測評価関連部品
図1:自動車の光計測評価関連部品

2. 光計測の原理

光とは電磁波の一種で、電磁波の波の幅を波長とよび、波長の長短によってX線・紫外線・可視光線・赤外線・電波などに分類されます。

図2:光の波長範囲
図2:光の波長範囲

光の波長のうち人間の目が見える範囲を可視光線といいます。波長の範囲は一般的には389nm~780nmです。明るさは物理的なエネルギー量(放射量)と、人がもつ明るさに対する知覚の強さである「人の目の感度」を加味した値である測光量の2種類に大別されます。
しかし人の知覚は心理的なもので感じ方には個人差があり、一定ではありません。そのため目視検査の場合に検査者の感じ方や体調によって判定結果にばらつきが生じてしまいます。そこで心理的な要素を代表的な感度として定量化するために、CIE(国際照明委員会)において相対的な分光応答度特性である標準分光視感効率(標準比視感度)を設定しました。

測光量は光を定量的に計測する際には光源に含まれる可視領域の分光エネルギーに標準比視感度を掛け合わせることで算出されます。その中でもディスプレイやランプなどの光量を示す単位として使用されることが多い輝度:cd/m2(カンデラパー平方メートル)はSI単位系に属し、日本のJISでも用いられており、光源や二次光源(反射面や透過面)の見かけの面積に対する単位面積あたりから特定の方向へ向かって放出される明るさを意味します。

図3:輝度の定義
図3:輝度の定義

輝度の特徴は光源が全ての方向に同一の光を発散する完全拡散である場合には、測定距離や測定方向(位置)に関わらず、輝度としては一定の値となる性質があります。
実際には光は指向性などがありますので、距離や位置によって輝度の値は変動する場合があります。

また人は明るさのほかに色を感じることができますが、人間の目には3つの視細胞があり、赤色・緑色・青色の3つの色に対応した感度を持っています。これを相対的に取り決めたのがCIEの等色関数です。この等色関数に分光エネルギーを掛け合わせることで赤・緑・青の人の目の感度に対応した三刺激値XYZが算出されます。

図4:人の目の視細胞と等色関数
図4:人の目の視細胞と等色関数

三刺激値XYZを元に色味のバランスを定量化した値を色度と呼びます。
色度は三刺激値XYZを二次元上に配置することで視覚的に識別できるようにした規格でCIE 1931で規定されたXYZ表色系と、CIE1976で規定されたUCS表色系が主にあります。また最近ではCIE 170-2で規定された新しい表色系もあります。

色度の見方は2つの値を座標値とし、交点を色度として表現します。
表色系には外縁部の色度に対応した主波長や、黒体放射軌跡を元にした色温度なども表現できます。色度は中心位置には無彩色に近く外縁部に近づくほど純度が高くなります。
LEDやOLEDは色純度の高い光源のため色度図外縁部に相当する色度の光源もあります。

図5:色度図
図5:色度図

3. 光計測の用途

自動車業界ではエアコンコントローラーやスイッチなどのインスツルメントパネルやカーナビゲーションなどの各種ディスプレイパネル、ヘッドランプなど多くの部品で光計測による明るさや色の管理が行われています。ここでは各種の自動車部品別に計測の事例をご紹介致します。

3-1. インスツルメントパネル/メータークラスター

インスツルメントパネルやメーターパネルなどは文字やラインなどの発光する線幅が非常に細いことが多いうえに、複数の発光点の計測が求められるなど評価箇所が多く、光計測器にも高感度な計測スペックが要求されます。
また、光源のLED化に伴い、従来のインパネ部品に加えてシフトレバーやハンドルなどにも発光部品が搭載されるなど範囲が広がっています。
従来はバルブ電球を用いることが多かったのですが、近年ではLEDに置き換わってきています。LEDは消費電力や経年変化が少ないことが優位点ですが、LEDチップごとのバラつきがあり、光源に使用する場合、チップ間の個体差や指向性の影響で発光領域に明るさや色味のムラが生じやすくなっています。

図6:メーターパネル計測事例
図6:メーターパネル計測事例

3-2. カーナビゲーション/各種ディスプレイ

従来のカーナビゲーションパネルからパネルの大型化や、ダッシュボードをそのままパネル化しディスプレイを内装照明として利用するなど多様な内装表現が可能となっています。車載用のディスプレイパネルは一般的なテレビやスマートフォンに使用されるディスプレイパネルとは異なり、運転席や助手席などの位置から視認しやすい角度特性を持たせています。また、タッチパネルによる操作が主体となるため、指紋や汚れの付着によるディスプレイの視認性の妨げや、拭き取り難さなどの評価を行うことがあります。

図7:車載ディスプレイパネル搭載事例
図7:車載ディスプレイパネル搭載事例

3-3. 加飾パネル

近年ではダッシュボードなどの内装インテリアにディスプレイや操作スイッチなどの光透過表示が可能なパネルを一体化させた機能付加加飾が増えています。これらの内装は加飾パネル・シームレス・ブラックアウト・ステルス・スマートパネルなどと呼ばれています。
加飾パネルは表示エリアに対して外光照射の影響や発光の有無による違いなどを管理するため輝度や色度の多点計測に加えて物体色や透過率の評価を行います。

図8:加飾パネル計測事例
図8:加飾パネル計測事例

3-4. HUD(ヘッドアップディプレイ)

フロントガラスや空間に投影するHUDなどの透過型表示機材は従来のディスプレイパネルとは異なりフロントガラスや空間に投影する方式となるため接触するタイプ光計測器では評価ができません。輝度計など非接触式の光計測器を使用する場合、デバイスの投影方式によってピントが合う位置がガラス面やフィルム面、虚像(表示)位置など異なります。

図9:HUD計測事例
図9:HUD計測事例

3-5. ヘッドランプ

自動車のヘッドランプは法規・規格が定められています。近年ではヘッドランプのLED化が進んでおり、指向性の強いランプが増えています。ヘッドランプはハイビームでは路面や前面を照らしますが、ロービームでは対向車の乗員がまぶしくならないようにヘッドランプの上方向に光が漏れないようにするための機能を設けています。この評価にはランプを投影したスクリーンを反射する輝度をもとに配光・光度点・カットオフライン・エルボー点などの評価を行います。

図10:ヘッドランプ計測事例
図10:ヘッドランプ計測事例

3-6. 車室内内装評価

自動車のシート材やダッシュボードなどの内装部品は布地や樹脂素材、金属など多様な部材が採用されていますが、ダッシュボードに使用される複数の部品で製造時の素材や表面処理方法、素材の分光反射率の差によって例えば太陽光下では同じ色味に見える素材であっても、トンネルなどの暖色光下では色味が変わる場合があります。
接触式の物体色計測器ではこのような色味の違いを検出することは難しいため、非接触で物体色を計測することで光源による色味の違いを評価することができます。

図11:車室内内装評価事例
図11:車室内内装評価事例

4. 光計測の種類

輝度を計測する輝度計の測定原理としては主に分光方式とフィルタ方式の二種類に大別されます。

分光方式 フィルタ方式
測定精度が高い
分光スペクトルの解析が可能
測定時間がかかる場合がある
測定速度が一定で速い
構造が簡素で安価
光源の分光特性によって誤差が生じる

4-1.分光方式

分光方式は人間の目が感じることができる光の波長範囲である380~780nmの波長を回折格子などを用いて分割し、波長別に放射量である分光スペクトルを計測します。これに数値処理によって分光応答度である等色関数を計算することで三刺激値を算出し、三刺激値を元に色度や色温度、主波長といった光計測値を計算します。
分光方式の特長として標準分光視感効率が計算値として固定されているため、測定対象物の分光スペクトルの影響を受けずに輝度や色度の計測が可能です。
ただし、取り入れる光を分割することになるため、暗い光源などの場合には測定時間が長くなります。

4-2.フィルタ方式

フィルタ方式は正式には刺激値直読方式と呼び、等色関数の分光応答度に近似させた光学フィルタを搭載し、入射した光を光学フィルタに透過させることで直接三刺激値を計測します。分光方式に比べて計測時間が早いことが利点ですが、光学フィルタの分光特性を等色関数に完全に一致させることは技術的には非常に困難なため、測定対象物の分光特性の影響を受けて計測結果に誤差が生じる場合があります。

図12:分光方式構造
図12:分光方式構造
図13:フィルタ方式構造
図13:フィルタ方式構造

自動車の搭載部品は、以前はバルブ電球などの使用が光源として一般的でしたが、最近は各種光源のLED化に伴い色純度が高まったことで輝度や色度の要求精度が高くなっています。これに対して、フィルタ方式は光源の波長特性の影響を強く受けるようになり、要求精度を満たすことができない場合が増えてきています。このため、LEDの計測には分光方式が推奨されるようになってきています。

4-3.スポット方式と面方式

スポット方式 面方式
指定点の計測が可能
測定箇所が多いと計測に時間がかかる
測定ポイント以外の特性は把握できない
複数点を一括計測できるため測定時間を短縮できる
発光面のムラを視覚化できる
中心と周辺で角度特性に差が生じる

輝度計の測定は発光対象物を視準し、測定径と呼ばれる円形の範囲内の輝度を計測するスポット方式が一般的です。接眼レンズがあるタイプの計測器であれば計測する箇所を視準しながら位置合わせできますが、要求に応じて一点ずつ計測を行う必要があるため、メーターパネルのように多数のポイントを計測する必要がある場合、位置合わせや計測に時間を要してしまいます。また、測定ポイント以外を計測することができません。
特にインパネなどの部品の場合、発光線幅が非常に狭いため通常の対物レンズでは計測することが難しく、クローズアップレンズを利用して拡大しながら計測することが多いです。

図14:スポット方式の計測イメージ
図14:スポット方式の計測イメージ

このような課題に対応するためにカメラで発光領域を一括で取得し、XYZフィルタなどを介して計測することで多点計測を可能にした「面方式」の輝度計が登場しました。
面方式のメリットとしては多点で計測ができるため計測時間が短縮できること、発光のムラを可視化できる点にあります。

図15:面方式の計測イメージ
図15:面方式の計測イメージ

[新しい評価:面分光方式]
分光方式の輝度計はスポット計測を行うため、複数点を個別に計測する必要があり、発光面のムラはわかりませんでした。また、一般的な面方式の輝度計はXYZフィルタ方式を採用しているため、LED光源などの要求精度を満たすことができない場合があります。
このため測定原理に分光方式を採用した面方式の輝度計の要望が高まり、トプコンテクノハウスは世界初の面分光方式の計測器を開発しました。当社の面分光方式は500万画素のCMOSセンサを採用し、1画素ごとに1nmピッチの分光計測を行うことができるため、高精度の評価を行うことが可能です。

図16:面分光方式の計測イメージ
図16:面分光方式の計測イメージ

5. 光計測のメリット・デメリット

光計測器は測定原理と測定対象物の波長特性や発光条件などによって計測結果が変わるため、測定対象物の発光特性に適した光計測器を使用することが望ましいですが、計測する外部環境の影響を受けることがあります。特に非接触の計測の場合、太陽光や屋内証明など、発光面以外の外光の影響を受けるため、暗室で計測するなど測定環境の整備が重要になります。
また、LEDなど指向性の強い光源によっては計測する角度によって明るさや色が変化する角度特性の影響を受けることもあり、サンプルの設置治具など測定の再現性を確保できる設備が必要になります。

トレーサビリティ体制の重要性
計測に使用する光計測器の精度も計測結果に大きく影響しますが、その際に重要になるのがトレーサビリティです。トレーサビリティを確認することでその計測器がどの基準につながっていて、どのように精度が保証できるかを証明することができます。
計測器メーカーが発行する校正証明書において基準となる校正光源が国家標準に紐づけされた標準光源であるか、といった校正基準のトレーサビリティを確認することができます。
特に国家基準に紐づけられた校正光源として利用される標準光源Aは点灯時間が定められているなど、厳密な管理のもとで運用しています。このように光源や環境を管理できる校正事業者として登録されている計量法校正事業者認定制度(JCSS)があります。

トプコンテクノハウスは半世紀以上にわたり蓄積した光学技術をもとに光計測器の開発・販売により、自動車照明業界における光計測のデファクトスタンダートとして多くの光計測機器やソリューションを提供してきました。また、2次元方式の分光放射計を世界で初めて開発するなど、常に光計測のイノベーションに挑戦し続けています。今後も、トプコンテクノハウスは長年蓄積した光学技術を更に高めるとともに、常にお客様の声に耳を傾け、お客様の課題には私たちの持つ創造力と光テクノロジーソリューションでお応えすることを念頭に、広範なノウハウを基に新技術開発の加速、アフターサービスの充実に邁進してまいります。

参考文献

  • 光の計測マニュアル 照明学会
  • 実用光キーワード辞典 日本光学測定機工業会
  • 光計測ポケットブック 日本光学測定機工業会

(著)株式会社トプコンテクノハウス